事務室の鍾声~学校事務職員の発信実践

伊藤拓也 全国学校事務労働組合連絡会議(全学労連)、学校事務職員労働組合神奈川(がくろう神奈川)・川崎支部で学校事務労働運動に参加 川崎市立学校事務職員 Twitter→@it_zgrr

問題は学校事務への無理解がはびこる学校風土と教育委員会の人事政策ではなかったか ~横浜「不適切な経理事務」に思う~②

前回の続きです。

 

www.city.yokohama.lg.jp

 

it-zgrr.hatenablog.com 

問題は大きく4つに整理できる。

 

①「業務が多かった」

②「教員の『物品等がすぐに必要』という要望…に応えるため」

③「同校配置の事務長は学校事務職員の業務状況や進め方について確認しておらず」

④「校長、副校長も不適切な経理事務について把握していなかった」

 

今回は③から。

 

当該校は全22学級の小学校。

義務標準法(公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律)上、事務職員は1人配置となる。

しかし報道発表を見ると、「当該職員」とされる事務職員のほかに、同校に所属する「事務長」がいるという。つまり事務職員が義務標準法定数より1人多い。

 

この「1人多い」のは、任命権者(この場合横浜市教委)の申請を受け文科省が配当する、いわゆる「共同実施加配」の結果と推測される。

この「共同実施加配」は一般に、学校事務の適正化・効率化に資する目的で配置するものとされている。

 

横浜市の「事務長」は係長級職員に当たり、市内に4か所ある「学校教育事務所」の教育総務課担当係長を兼務している。

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www.city.yokohama.lg.jp(P242~244)

 

さて。

学校教育事務所係長兼務であろうとなんだろうと、「事務長」が学校事務職員であることには変わりはない。義務教育費国庫負担が入り、学校教育法に基づき学校の事務に当たる職員である。

である以上「事務長」は当然に、学校事務職員として当該校の学校事務業務を担う。

学校事務職員としての仕事だけではなく学校教育事務所の仕事もある、としても、そこは加配職員を充てることで措置はされている。

他方言うまでもないが、学校事務職員本来の業務は加配職員だけがやっていれば良い、というものではない。だって事務長は学校事務職員なんだから。

 

前回記事で①②について述べた趣旨は、学校財務(経理)をめぐる問題は事務職員という職種だけの責ではない、ということだ。

それは前提として。

横浜市教育委員会の人事政策として、選考により昇任され責任ある立場に立つ「事務長」学校事務職員が所属し加配措置もなされていた学校において起きた「不適切な経理事務」について、なぜ事務長は直接当事者の立場にないのか。

2人の事務職員の間の分担として経理事務はもう一方の担当であったとしても、日々同じ事務室で仕事をしていれば、年間200件以上行われたという口頭発注に、気づかないなんてことはあり得ないではないか。

この事務長は当該校で一体何をしていたのか。「学校事務職員の業務状況や進め方について確認しておらず」して何をしていたのか。何のためにいるのか。事務長なんて役を設けたせいで、却って本来業務への関与関心が失われ適正な学校事務における機能不全を起こしたのでないか。

 

事は当該校の事務長個人の問題ではない。

「事務長」を置き学校教育事務所担当係長兼務とした、教育委員会の人事政策は、学校事務の在り方を真に理解し尊重したものであるのか。どういう機能を期待したものなのか。はなはだ疑問だ。

 

④について。

学校事務職員による業務上の瑕疵をめぐっては、とかく事務職員個人にその責任の矛先が向く傾向がある。

その最たる要因は、校長・副校長・教頭といった管理職が、学校事務職員の業務を知らない点にあると考えられる。

もちろん、教員出身の管理職が事務職員の業務の「仕方」を知らないのは、やむを得ないところだろう。間違っても、学校事務職員出身の管理職を置け、などとは思わない。

しかし業務の「仕方」を知らなくとも、遂行状況や自身の決裁にかかわる部分にまで無関心であっていいとは思わない。

業務の仕方を知らなかろうがなんだろうが、責任者は校長なのだ。法的・制度的にもそうであり、だから管理職なのだ。

年間200件以上の「不適切な経理事務」を見逃し続けた管理職は、この点で大いに責任がある。年間200件以上の「事後決裁」を繰り返した、ということを意味するのだから。

そしてもうひとつ。教育委員会は管理職に対して、経理事務に係る基本的な考え方を十分に説明してきたか。はなはだ疑わしい。

私の働く川崎市についていえば、新任教頭にはまず財務(経理)関係の決裁の「仕方」から、現場で校長ないし事務職員が教えなければならない。教育委員会は「考え方」どころか決裁の「仕方」さえ教えることなく、学校現場に新任教頭を送り込む。

おそらくどこも同じようなことではないか。そんな様では、管理職が学校事務に対して無関心・他人事となるのもむべなるかな、という気もしてくる。

 

報道発表を見るに、管理職の課題については一定認識をしているようだ。

しかし、横浜市教育委員会自身の課題について省みる姿勢はみられない。

こんな流れで、問題を「ヒラ」の事務職員個人の責に帰す結果になってはならないと思う。