事務室の鍾声~学校事務職員の発信実践

伊藤拓也 全国学校事務労働組合連絡会議(全学労連)、学校事務職員労働組合神奈川(がくろう神奈川)・川崎支部で学校事務労働運動に参加 川崎市立学校事務職員 Twitter→@it_zgrr

問題は学校事務への無理解がはびこる学校風土と教育委員会の人事政策ではなかったか ~横浜「不適切な経理事務」に思う~①

1か月以上更新を空けてしまった。

 

このかん、寄稿原稿が掲載された月刊誌が発行されたり官製ワーキングプア問題を考える集会に出席し発言の時間をいただいたり全学労連の秋季恒例の中央行動があったり元有期雇用公務員による地位確認請求訴訟の傍聴に行ったりと、いろいろとトピックはあった。

 

が、今回はこちらのお話。

 

www.city.yokohama.lg.jp

横浜市立小学校で「不適切な経理事務」があったという。

この件は神奈川新聞で報道され、さらにそれがYahoo!ニュースに掲載されたこともあり、そこそこ広く知れるところとなった。

私もTwitterで報道を紹介するツイートを見て知ったところ。その範囲での印象は次のようなものだった。

 

なるほど確かに報道を見るに、不適切な経理事務には違いないだろう。

しかし正直なところ、見積書徴収の方はともかく未決裁口頭発注については、ほんの10年前までは多くの学校で横行していたし今でもやってるところではやってると推定される。

繰り返すが、不適切(関係規則違反)であることは間違いないわけで、「昔は当たり前だった」とか「みんなやってる」とかで、「良いじゃん」と言いたいわけではない。

ただそうした経過や実態を知っている立場からすれば「あるある話」でもあって、それをわざわざ報道発表に乗せ新聞が報じるにまで至るというのは「どうしたもんだろ」という感想を抱いた。

以上は第一印象の話。

 

さて。お隣の市での話ということもあってか、川崎市教委からも12月1日付で学校宛に、横浜市の事例を引いて適正財務を改めて徹底するよう求める通知が出された。

通知には上の横浜市報道発表資料も添付されており、うかつにもそれで初めて報道発表=一次情報に目を通したところだ。

 

そうしたところ、「5 原因」が目を引いた。

これを踏まえるに、問題は「当該職員」としてあげつらわれている2人の事務職員の責に帰すべきでない要素が大であると感じている。

 

問題は大きく4つに整理できる。

 

①「業務が多かった」

②「教員の『物品等がすぐに必要』という要望…に応えるため」

③「同校配置の事務長は学校事務職員の業務状況や進め方について確認しておらず」

④「校長、副校長も不適切な経理事務について把握していなかった」

 

まず①について。かねて横浜市は、神奈川県下でも学校事務職員の業務量が多い自治体として知られている。

今回、横浜市教委の半年以上に及ぶ調査の結果出された「原因」の要因のひとつが「業務が繁忙」「業務が多かった」であることは重要だ。それは第一義的には、校長による校務分掌が事務職員に対して過重だったということであり、さらに言えば横浜市全体で学校事務職員の担当業務が過重である可能性も考えられる。

となれば、少なくとも当該校における校務分掌の見直し、場合によっては市全体での見直しにより、学校事務職員の業務軽減が図られなければならない。

しかるに、再発防止策にそうした点がまったくないのは大いに問題だ。

 

次に②について。なんともあるあるな話だ。

学校事務への理解がない教員の中には昔から「明日使いたいから買ってくれ」なんて言ってくる人がいる。ひどいのになるとその日の朝に「今日の午後使いたい」と言ってきた例もある。

問題は「無理解な個人が時々いる」というだけにとどまらず、それが「学校風土」として定着している場合もあることだ。

思い出すのは私が初任だった十数年前、当時の学校でのお話。

仕事に慣れてきた秋ぐらいから、適切な財務(経理)事務の実施のため「『すぐに必要』と言われても公費の執行には踏むべき手続きがあり、対応できない」と繰り返し周知していた。

繰り返し周知していたのはつまり、「すぐに必要」と言われる事例が多かったからである。ひどいのになると、教員が近所の店で勝手に買ってきたレシートを渡されて「払っといて」と言われることもあった。→払えません

そんなある日、中堅の総括教諭から「伊藤君さ、学校っていうのは役所と違って授業で急に物が必要になることもあるところなんだから、融通利かせていかなきゃだめだよ」と説教されたことがある。

私の場合は説教を聞き流し、相変わらず「急な物品購入は無理」と言い続けた。彼は処置なしと判断したのか、それ以降同じことは言わなかった。そして、「すぐに必要」という要求は消えていった。

しかし、学校でひとりふたりの事務職員が、多数の教員を相手にして、彼ら彼女らにとって共通の便益である「すぐに必要」という要求をはねつけるのは、簡単なことではない。

経理事務上の規則」に対して「学校」「授業」を対置し、学校・授業・教育~教員の便宜を優先しろ、という学校風土。

本件の学校でもそれがあったのではないか。再発防止策の1番目に「校内において、適正な経理事務の重要性について教職員に対し研修」とあるのは、まさにその証ではないか。

だとすれば、「不適切な経理事務」はそれを求めた学校全体の問題であり、それに応えざるを得ない立場にあった事務職員は被害者とさえ言える。

こうした構図も含め、学校事務職員にとって「あるある」なのだ。

 

長くなった。③④についてはまた次回。