いまさらながら、と言われるかもしれないが。
自身の住まいである、衆議院神奈川10区の選挙公報を目にした。
選挙において、候補者やその候補者を公認・推薦する政党が掲げる公約は、投票にあたってもちろん参考にすべきものだろう。
ただ一方で、候補者や政党がこれまで、公約の実現状況ももちろんだが公約以外も含め、どういう政策や主張を展開し、あるいは政治的社会的スタンスをとってきたか。つまり「未来」ではなく「過去と現在」も、投票にあたっては大いに参考にすべきことだ。
「過去ではなくこれから何をするかではないか」という考えもあるかもしれないが、過去はこれから何をするかにも大いにかかわる。
公約でいくら美辞麗句を並べても、掲げる公約の実現性や本気度、そして公約以外の政策に対する姿勢において信頼が置けなければ、票を投じるには心もとない。
以上、私の基本認識を前提的に披歴。なんだか教科書みたいね。
そんなわけで、私は選挙公報をあまり真面目に読む口ではない。
もっとも、それでも斜め読みすると気になるところは見つかってくる。
例えば、私の関心分野である教育のデジタル化について言及している候補者がいた。
教育分野のデジタル化・リモート化を強力に進め、子ども達の希望や発達段階に応じたオンライン教育を実行します
とのことである。
基本的には現行教育政策の基本路線を踏襲しているように見えるが、“リモート化を強力に進める”というのは少し踏み込んだ立場だ。
教育のリモート化の推進となれば、その内容によっては公教育や学校の在り方に大きな変化をもたらしかねない。しかもそれを「強力に」と言う。
この候補者は現職ベテラン議員だが、文教畑の方という印象はない。その中でのこの公約は、大きな踏み込みなのか。
趣旨を議員事務所に電話でお尋ねしてみた。秘書の方が対応。
説明によれば、“現段階では、コロナ禍や災害時等においてもリモートで教育活動が継続できるように、すべての学校で準備を整えていくという趣旨”であり、“いますぐ学校教育をリモートにしていくという考えではないと思う”とのこと。
“ただ、10年先20年先30年先を見たときに、他の国で教育のリモート化がさらに進行する状況になってもこれに遅れることがないように”との趣旨も述べていた。
丁寧な応答には感謝。
ただ、“教育分野のリモート化を強力に進める”と謳う中身としては、現状ですでに(若干の不十分さはあれ)実現している内容だな、と感じる。
公約としての適格性に疑問が残った。
もうひとつ、別の候補者について。
これは個別の公約と言うよりは基本姿勢の問題。
大きな見出しが
#反対より提案!
呆れ果てた。
「反対」と「提案」はいつから矛盾する概念になったのか。
意思形成の場において当事者間の当初見解が対立していれば、当事者はまずは相手方提案に「反対」の基本姿勢を示しつつ、そのうえで真摯な協議環境の中において有形無形の様々な「提案」がテーブルに乗り、そうして結論に至るものではないのか。
それは社会のあらゆる場面でそうなのではないか。
労働運動における労使交渉だってそうだ。社会運動における要求実現の取り組みだってそうだ。商談や各種団体における意思形成だってそうだ。
意見の対立する二者以上が意思形成をなそうとすれば、「反対」と「提案」は一体で展開される。
一応付け加えれば、相手方提案に対して「撤回しろ」と言うことだって立派な「提案」だ。
結局、よくある「〇〇はなんでも反対するばかりで無責任」というレッテル貼りに率先して迎合し、「私たちはそれとは違う」とばかりに、不当な印象操作を正すのではなくそれから逃げ回ろうとしているのではないか。
そんな姿勢からは、自身の主張・政策を実現するんだという矜持も感じられない。
「反対より提案」という没論理的な印象フレーズを大見出しに掲げるようでは、公約の体もなしていないと言わざるを得ない。
もう一度。
私は、選挙公報をあまり真面目に読む口ではない。
未来に向けた公約は、そりゃ「良い風」なことが並んでるに決まっていて、投票の判断材料として微妙なだけではなく、面白くもない。
と思っていた。
でも、今回目を通したら、結局こんなに書くことが出てきた。議員事務所に電話までしてしまった。