事務室の鍾声~学校事務職員の発信実践

伊藤拓也 全国学校事務労働組合連絡会議(全学労連)、学校事務職員労働組合神奈川(がくろう神奈川)・川崎支部で学校事務労働運動に参加 川崎市立学校事務職員 Twitter→@it_zgrr

川崎市立学校教職員大量処分~旅費不正受給について現場から感じること

昨日、川崎市教育委員会は多数の市立学校教職員に懲戒処分等を発したことを公表しました。

 

www.city.kawasaki.jp

www.tokyo-np.co.jp

 

私の知るところも少なくなく、また感じるところも多々ありましたので、以下それを残しておきます。

今回は旅費の不正受給に絞って。


制度のお話

川崎市では昔から、自家用自動車等の出張利用は基本的に認められていません。

ここで言う「自動車等」は、自動車・バイク・自転車を指します。


自家用と公用

「自家用」ですから、公用車なら可です。

ただ公用の自動車やバイクが存在する学校は知る限り存在しません。

公用自転車であれば、どの学校にも複数台あるはずです。

 

自家用自動車等による出張の実態

基本的に認められていない自家用自動車等による出張。

しかし実際には、広く行われていました。

自身が出張で教育会館に行けば、自家用であることが一目瞭然の自転車が駐輪場にズラリ。

自校が研修会等の会場になれば、どう見ても自家用自転車、さらにはバイクでも来る来る、他校教職員。

こうした実態は、学校の教職員だけでなく教育委員会の課長級職員にも知る者は多かったはずです。

(課長級職員には教員出身者も多数おりますし)

 

今回の処分

自家用自動車等の出張利用。

それ自体制度違反ですが、今回の処分では100%不問に付されています。

今回の処分の理由は

「自家用自動車等を利用したこと」

ではなく

「実際には払っていない交通運賃を払ったと虚偽の届け出をして、その運賃額を受給したこと」

です。

この点、自家用自動車等の出張利用を原則認めないという制度の是非とは、まったく別の話だと私は考えます。

 

「制度が悪い」?

そもそも、出張に自家用自動車等を利用できないという制度はおかしいのではないか。

そういう意見は意見で、もちろん成り立つでしょう。

既存の制度を問題視し改善を希求することは、とても重要です。

しかし。

制度が悪いのだから乗ってもいないバス代を請求して良い、という話にはなりません

私自身はこれまで、川崎市の様々な既存制度を問題視し、改善要求に取り組んできたと自負しています。

そうして、実際に改善を勝ち取った事柄も複数あります。

そうした立場だからこそ、制度の問題と公金の虚偽請求・不正受給を混同した議論は、やめてほしいと思います。

 

教員いじめ?

川崎の学校の話ということで昨年のプール水問題と絡める声も、ネット上に散見されます。

しかしこれはまったく別の話。

「別の話」と言うと、「教員不足とは別の話」と公言してしまった福田市長とカブるのでアレですが…。それはさておき。

特殊性の高い設備の操作上のミスと、乗ってもいないバス代を請求した行為を同列視するのは、いくらなんでも筋が悪いと思います。

 

「子どものためだった」?

児童生徒対応のためにギリギリまで学校にいて、それで早く移動できる手段を使った、という声。

どうやら当事者の教員たちの中にも、そう述べている方がいるようです。

ただ現場を知る者としては、ほとんどについて因果関係が逆だと推察します。

最初は交通機関で行くつもりだった、しかし児童生徒対応のため乗るはずだった交通機関に乗れなかった、次も同様になる可能性を考えて以後自家用自動車等を使うようになってしまった。

そういうことなら確かにそうでしょう。

しかし申し訳ないけれど、違うと思うのです。

証明材料となりうること。それは処分事由の出張のうち、自宅直行ないし直帰の割合。

それから当該職員が通勤に自家用自動車等を使用している割合。

おそらくどちらも、かなり高い数値となるでしょう。

学校と出張先の移動の問題よりも、自宅と出張先の移動の問題。

自家用自動車等を利用した理由の多くはそれではないかと思います。

なお、ここまでのことが全部的外れだったとしても。

「子どものため」だったから、乗ってもいないバス代を請求して良い、という話にはなりません

そんなことに「子ども」をダシにするのは、いかがなものでしょう。

 

当局の肩を持つのか

労働組合役員の立場で、当局の処分に対する批判の声にこうして反論するのは、かなり逡巡しました。

一方で旅費事務は学校事務職員である私にとって重要な職務であり、その公正な執行は責務です。そこには私なりの職業倫理も宿っています。

また、私も一市民として、川崎市に納税している身でもあります。

本件。公務員が不正に公金をポッケに入れた、というお話。

そうした話について、労働者無条件擁護でいかなる処分も許さない、という立場には私は立てません。

 

処分の問題

ただ、発端となった昨年3月の処分と均衡が取れているかは、疑問を持ちました。

昨年の処分では、校長が減給3月(ただし再任用終了のため実質3日)、教頭が減給1月でした。

一方今回の処分には校長3人と教頭1人がいますが、いずれも戒告です。

ついでに言えばこれは処分そのものとは違いますが、昨年と違い報道にも、旅費を不正受給した校長が校長を務める学校名は出てきていません。

昨年の処分理由では、当人の不正受給よりも先に筆頭に、同校で不適切な処理が行われてることを知りながらすぐに対応しなかったことが挙げられています。

強いて言えばこれが理由でしょうか。


校長の問題

昨年の処分もそうでしたが、今回不正受給で処分対象となった校長3人も全員60歳超です。

そもそも全国的には極めて例外的な「再任用校長」が、川崎では当たり前に横行していることは、妥当なのでしょうか。

さらに、今年度から地方公務員には定年引上げと合わせて役職定年制が導入されています。

60歳を超えたら管理職たる校長からは降りるのが、法的にもスタンダードとなりました。

しかしながら川崎市教委は、例規定を適用し、引き続き60歳超の校長を多用しています。今年度も60歳超の「暫定再任用校長」を多用し、また来年度以降も特例規定の適用により60歳超校長の任用を検討しています。(2月21日16:30訂正)

私の所属する組合は、これに反対しました。

「学校は特別」「教育職は特別」といった意識は、労働現場としての学校をガラパゴス化させ、ひいては給特法等に代表されるように他では通用しない劣悪な労働条件を導入・温存させるものだと考えたためです。

別稿に譲りますが、同日に処分が公表された服務規程違反の被処分校長2人も、60歳超つまり特例措置校長です。

川崎市教委の人事政策そのものの問題も、浮き彫りになります。

そんなわけで、全然当局の肩は持っていません。

 

つづく

川崎市教委の人事政策という点では、同日のもう一件。出退勤管理をめぐる処分にもつながります。

それは次回に。

 

※2月17日7:25、一部加筆修正