事務室の鍾声~学校事務職員の発信実践

伊藤拓也 全国学校事務労働組合連絡会議(全学労連)、学校事務職員労働組合神奈川(がくろう神奈川)・川崎支部で学校事務労働運動に参加 川崎市立学校事務職員 Twitter→@it_zgrr

会計年度任用職員の期末勤勉手当〜「制度だから仕方がない」ではなく、労働条件をめぐる差別に敏感でありたい

地方公務員の賃金確定が、各地で進行しています。

 

それに先立つ各地の人事委員会勧告では、民間企業の賃金実態を踏まえるとして、特別給=期末・勤勉手当を引上げること、引上げは勤勉手当に配分すること、とする内容が多くの自治体で出されました。

 

私の勤務する川崎市も同様であり、そして市当局は賃金確定交渉において同様の提案を終始示してきました。

 

もちろん、特別給引上げ自体は歓迎するものです。

しかしながら勤勉手当=成果給部分への配分は、平等な賃金体系をさらに弱め職員間の賃金格差を拡大させることになります。

折しも、とりわけ今年度に入ってから、物価高が進行しています。消費者物価指数は毎月3%前後上昇、実質賃金は1.5%前後の低下を続けています。

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(毎月勤労統計調査より)

 

こうした物価高による実質賃金の低下というマイナス影響は、全体に等しく及びます。

そうした状況下にもかかわらず貴重な賃上げ原資を成果給部分に配分することは、職員全体の生活向上を目指す労働組合の立場として容認できるものではありません。

 

ただ合わせて、いやそれ以上に問題なのが、勤勉手当引上げだけでは会計年度任用職員が特別給引上げの好影響を一切受けられないことです。

会計年度任用職員は期末手当だけで、勤勉手当は支給されないのです。

 

2020年度にスタートした会計年度任用職員制度。その特別給の扱いははじめから批判の対象でしたが、スタート後の経過はさらにひどいものです。

川崎市に例をとれば、2020・21年度の2度の期末手当引下げによる、特別給計0.2月の引下げは期末手当から引くこととされ、その不利益は「平等に」会計年度任用職員にも及びました。

それでいて、今回の0.1月引上げでは勤勉手当に配分された結果、会計年度任用職員は置き去りにされました。

正規雇用労働者への賃金支給を制度上限定し、その制度を理由にその人たちだけを賃下げしっぱなしの状態に置いているのです。

不当な非正規雇用労働者差別であり到底容認できません。

 

私が所属する学労川崎(学校事務職員労働組合神奈川川崎支部)は川崎市当局との最終団体交渉において、こうした問題を踏まえ、合意には至りませんでした。

しかし残念ながら、自治労川崎市職労や日教組川教組は合意に及び、会計年度任用職員置き去りの賃上げが実現します

 

当たり前ですが、特別給引上げを勤勉手当に配分すべしとした人事委員会も、人勧尊重を言い訳にその通りの内容でしか提案しなかった当局も、合意に及んだ自治労川崎市職労や日教組川教組も、会計年度任用職員が「賃下げしっぱなし」という差別的賃金改定に置かれることは、百も承知です。

そういう結果を生み出すことがわからないほど、物知らぬ人たちではありません。

 

そのうえで。

「差別の意図はない。勤勉手当が出ないのは制度だから仕方ないじゃないか」

そんな声もあるかもしれません。

しかし、「制度に沿った結果だから差別ではない」ということにはなりません。

 

古来、病気や見た目や出自等々を理由にさまざまな差別があります。

その中には国ぐるみの差別もありますが、それらはしばしば、法・制度の裏付けをもつものでした。

それらも丸ごと「差別の意図はない、制度だから仕方ない」とするのでしょうか。

それはあまりに、歴史から得るべき教訓を蔑ろにする発想ではないでしょうか。

 

差別を生み出す制度であれば、その制度を変えること。

制度を変えるまでの間においては、制度の範囲内で最大限差別を埋めること。

何より自身が、差別を認める主体とならないこと。

それが大事だと思うのです。

 

川崎市人事委員会、川崎市当局、川崎市職労や川教組といった川崎市労連加盟組合。

そして同じく、制度を盾に有期雇用労働者差別を公務労働現場で拡大強化した動き。

 

それらを「仕方がなかった」と言わせない運動が必要です。

 

人事委員会についていえば、例えば和歌山県では

“会計年度任用職員については、勤勉手当を支給することができないため、期末手当を引き上げることが適当”

と勧告しました。

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差別を生み出す制度であるところの、会計年度任用職員への勤勉手当不支給という問題には手が届かなくとも、先述した「制度の範囲内で最大限差別を埋めること」の一端を、和歌山県人事委員会はやったわけです。

 

また人事委員会がそこに踏み込まなくとも、賃金確定交渉において労使の侃侃諤諤を経た結果、同様の内容に進んだ自治体があると聞きます。

 

会計年度任用職員の特別給引上げ置き去りは、労働条件をめぐる差別問題だという視点が重要だと考えます。

実は川崎市の場合そもそも、期末手当支給要件=6か月以上の任用を満たす会計年度任用職員学校事務職員は、まずいません。

会計年度任用で学校事務職に任用される場合というのは病気休暇代替だけですが、病気休暇90日を過ぎれば代替者は臨時的任用職員に任用替えになるので。

ですので、学労川崎が会計年度任用職員の特別給問題に取り組むのは、組織対象者の労働条件改善というよりももっと広く職員全体・労働者全体を考えた結果です。もちろん、その「全体」の中に、私たち学校事務職員も含まれます。

 

労働者の労働条件について、労働者間に差別が持ち込まれてはいけません。

そういえば学労運動は、学校における日常的な職種差別的対応と、教特法・人確法による職種分断賃金に対する日教組の受容という条件下で生まれた、と聞きます。

ならばこそ、現代公務職場においてもっとも差別的矛盾が集中する課題に対して、私たちは原点に帰る気持ちももって、取り組みたいと思うのです。