事務室の鍾声~学校事務職員の発信実践

伊藤拓也 全国学校事務労働組合連絡会議(全学労連)、学校事務職員労働組合神奈川(がくろう神奈川)・川崎支部で学校事務労働運動に参加 川崎市立学校事務職員 Twitter→@it_zgrr

「高校紛争1969-1970」を読み、半世紀が経ってもなお続く学校教育をめぐる課題に改めて着目する契機になる

しばらく前に購入していた「高校紛争1969-1970」(小林哲夫中公新書)を読んだ。f:id:it_zgrr:20210606205735j:image

 

全体を通して、著者の膨大な取材量にまずは敬服する。

記録や評論、新聞記事、自費出版や報告書はもちろん、内部資料や小説、そして高校○年誌まで多くの資料に当たり、さらに関係者へのインタビューも織り込んで、この本はできている。

 

筆致も丁寧だ。

当局と生徒のどちらに偏ることなく、双方に対して安易な決めつけや評価をすることなく、それでいて著者の視点からの分析をおざなりにしているわけでもない。

「紛争」をゴシップ的あるいは戦記まがい的に描くことなく、むしろ経過を丁寧に積み重ねてその実態を明らかにしていく。

個別の学校の事情だけでなく、地域事情や地方ならびに国の教育政策の動きとの関連も折々に折り込まれている。

 

それから、タイトルには「1969-1970」とあって、確かにその時代の話が中心ではあるのだが、実は「源流」としてその戦後以来の高校生運動についても紹介されている。

この中で特に驚いたのは、高知県の勤評闘争にあたっての高校生徒会連合の運動だった。1950年代に制度化された教職員への勤務評定を拒否した校長に対し、高知県教委は懲戒免職も含む厳しい処分を行った。これに対して高校生徒会連合は座り込み・授業ボイコット・高校生5800人参加の反対集会・新任校長着任に際してのスクラム阻止、、、と。

いまや「人事評価」という名の勤評が賃金との連動という形でさらに強化され、かつて反対していた日教組の傘下組合役員が率先して高評価と上位昇給・昇格に与っていく川崎の状況を考えると、言葉を失う。

 

それにしても。

「1969-1970」はもう半世紀以上も前の話であるにも関わらず、この時代の高校生が突きつけた課題は、いまの学校現場においても変わらず存在する課題なのではないか。いや、それどころかいくつかの課題についてはさらに強化が進んでいる課題なのではないか。

過度な校則、行動の制限、受験特化型教育、能力別教育、産業従属教育、管理強化、学校運営や経理の不正・不透明、式典・イベント動員、、、。

また、政治的・社会的課題に関する突きつけも同様だ。特に沖縄をはじめとする軍事基地・軍事施設を身近に持つ立場にとってその課題は当然、毎日の生活に関わるものであってそこに大人も子どもも、社会人も高校生もない。高校生の政治活動禁止という施策がいかに欺瞞的であるか、明白だ。また、女子高での運動の背景にはジェンダーの問題が現れている。これらの課題もやはり、現在進行形だ。

 

それでも個人的には、特に、学校における学びとはなんなのか、学校は資本に都合のいい人材を育成することが目的なのか、という問いを改めて立てたい。

思えば私が学生時代にこだわっていたのも、産学連携反対であった。在籍していた大学の設置法人理事長は「大学の役割は良い製品をつくって保証書をつけて社会に送り出すこと。これが産学連携だ」と公言した。もう十何年も前の話だが、いまも覚えている。

近年進められている教育政策であるところの、GIGAスクール構想やSTEAM教育、プログラミング教育にしても、日本資本主義権力の「発展」の観点から打ち出されたものであることは間違いない。

他方、「アクティブラーニング」や「主体的・対話的で深い学び」とは、高校生運動のなかで要求されたカリキュラム改革や自主ゼミナール設置と近似する。また、高校生の政治活動禁止という通達はむしろ背反する。そうとらえれば、まさに文教政策の誤りであるはずなのだが、、、結局、そこにある「アクティブ」や「主体」は、日本資本主義権力の決めた枠内での「アクティブ」であり「主体」としてしか許すつもりはないだろう。

それに対して、本当の学びの実現を目指していく学校のあり方とは・・・。

 

高校生運動も含めた学生運動は、必然的に若者たちの運動であり、そのゆえに「未熟」「非現実的」「視野狭窄」「洗脳」などといった攻撃を浴びる。

しかし本書著者は、そうした偏見・決めつけの存在は示しつつも自身としてはそうした評価を入れ込まず、圧倒的な資料渉猟と取材で、高校生運動のあり方を描いている。

そしてそれは単なる過去の思い出話ではない。

 

産学連携反対の声はすっかり聞かなくなった。しかし、産学連携をめぐり突きつけられた問題がなくなったわけではない。

能力別教育や受験特化型教育、その他諸々も、問題がなくなったわけではない。

それを改めて想起させてくれた。勉強になる本だった。

 

あ、最後に。

本書では運動当事者からのインタビューも掲載されているが、その中にお知り合いがいてビックリした。労働運動の分野でご活躍の方だけど、それは知らなかった。