事務室の鍾声~学校事務職員の発信実践

伊藤拓也 全国学校事務労働組合連絡会議(全学労連)、学校事務職員労働組合神奈川(がくろう神奈川)・川崎支部で学校事務労働運動に参加 川崎市立学校事務職員 Twitter→@it_zgrr

【発表紹介】共同実施・共同学校事務室と事務職員の業務負担増の実態(2022年10月・全国学校事務労働者交流集会)

第49回全国学校事務労働者交流集会・福島 テーマ②
「共同実施・共同学校事務室と事務職員の業務負担増の実態」
2022年10月1日 伊藤拓也(全学労連事務局)

 

■本報告について
 共同実施・共同学校事務室が事務職員の業務負担増につながっているのか否か、つながっているとしたらそれは具体的にどのような領域において、どのような経緯のもとにつながっているのかを、2本の調査報告と現場報告をまじえて浮き彫りにし、課題認識の共有と今後の対策について考えていく。

 

■調査報告①
「学校における専門スタッフ等の活用に関する調査結果報告書」(総務省・20年5月15日)

 

□内容
 本報告で扱う「調査結果報告書」は総務省が実施したもので、2015年12月の「チーム学校」と19年1月の「学校における働き方改革」の中教審2答申において「専門スタッフ等」の活用が謳われながらもその課題等が明らかにされていない、との認識から、「教育活動の充実及び教員の負担軽減の観点から、専門スタッフ等の活用状況等を調査し、関係行政の改善に資するため」実施された。調査対象となったのは17県教委・32市教委・145公立校(小64・中64・高17)・8私立中である。
 この報告書には「学校の事務職員の活用状況」の項があり、様々な事例が掲載されている。全学労連事務局ではこれらの事例の基となった、調査対象機関からの回答に係る資料について、総務省に対し情報開示請求を行った。これにあたっては各々の調査対象機関=自治体名の開示も求めていたが、結果としてその点は非開示とされた。
(主に「今後の調査において、調査対象期間が調査への協力を躊躇し、調査に係る実態把握や調査対象機関の協力を得ることが困難となるなど、調査事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」)
 しかしながら開示資料自体は、報告書には表れてこない生の実態が垣間見えるものであった。ここでは「教員の負担軽減」をキーワードに、共同実施・共同学校事務室と事務職員の業務負担に因果関係をおいた記述を抜粋して紹介する。


□事例1:「調査結果報告書」P76~ 図表3-(4)-③の1項目 

〇基資料には以下の記載があった。

同教委によると、この取組≪注:学校間連携≫で教員が従来担当していた学校徴収金の業務を口座振替に移行し、教員の業務負担軽減につながったと説明している。また、同委員会が平成29年10月に■■■内の51校すべての小・中学校にアンケート調査を行った結果、全体の75%(38校、現金徴収の併用を含む)が口座振替で学校徴収金を徴収することが可能となり、口座振替で徴収している学校の17校(45%)で教員が事務負担軽減されたと回答している。

〇しかしながら、上記アンケート調査においては「現金徴収の場合と事務量は変わらない」としたのが1校、「増えた」が2校あったほか、実に18校(47%)が「その他」を選択しており、欄外の「(注)」として「その他には、教員の負担軽減になったが、事務職員の負担軽減にはなっていない等の意見」とある。

 

□事例2:「調査結果報告書」P76~ 図表3-(4)-③の2項目

〇基資料には以下の記載があった。

従来教員が担当していたIT機器の管理部業務、従来教頭が担当していた就学援助業務や外部人材の給与業務をグループで処理することができるようになり、教頭や教員の負担軽減につながっている

〇ただし、この報告を上げた総務省出先機関が同じく調査した別の教育委員会は、共同実施については事務職員が週に何度か自校を離れることでその間の業務を教頭・教員が行わなければならず負担増につながる恐れがあること、共同学校事務室についてはメリットがよくわからない一方で設置には時間と費用がかかることを理由に挙げ、いずれも行っていないとしている。

 

□事例3:「調査結果報告書」P76~ 図表3-(4)-③の3項目

〇基資料には以下の記載があった。

平成17年度から隔年で「校務分掌にかかる調査」を実施している。同調査結果によると、次表のとおり、事務職員が当該事務を担当している学校数の回答学校数に対する割合は、いずれの事務についても徐々に増加している。このことから、各学校の事務職員が担当する事務の数が次第に増えていることがうかがわれる。

調査結果について、事務支援グループ統括グループ長≪注:■■■立■■中学校事務職員/正確な役名は「統括事務支援グループ長」≫は次のように述べている。

「事務の共同実施は、教員の負担軽減を目的の一つとして推進してきている。≪中略:共同実施で効率化を図り生み出された時間・余力で教員が担ってきた業務を事務職員が担当、との旨≫。しかし、近年は、若い事務職員の割合が増えてきたことにより、担当する事務の数の増加は頭打ちになっている。」

〇2005年から17年にかけて、例えば「児童生徒の学籍管理」23.4%→100%、「予算要求関係事務」38.3%→100%、「施設修繕の整備改革に関する事務」19.1%→100%、「学校だよりに関する事務」0%→52.1%、「学校徴収金(教材費)の集金に関する事務」23.4%→100%。
〇他方で、11年から17年にかけてパーセントが下落している職務もある。例えば「企画・運営委員会参画」72.3%→66.7%、「校外活動等の渉外事務」27.7%→18.8%、「PTA・後援団体諸会費の集金に関する事務」100%→81.3%など。

 

□事例4:「調査結果報告書」非掲載事項①

〇基資料には以下の記載があった。(同一自治体)

≪前略:「つかさどる」改正に伴う事務機能強化・拡大は実施していないとしたうえで≫同教委は、平成20年度に始まった学校事務の共同実施以降、臨時職員の内申や教科書に関する事務等従来は教員が行っていたいろいろな事務を事務職員が行うようになっており、原則各校に1名である事務職員も多忙になっている――≪■■■教委≫

事務の共同実施の開始以降、事務職員が共同実施グループで研修、勉強し、学校において責任者として位置付けることを希望し、学籍(児童の転出入)に関する事務や教科書に関する事務(発注から各教室への配布)など、それまで教員が行っていた事務を事務職員が行うようになったものがあり、また、新規採用者の教育も共同実施グループの中で、先輩から教えてもらうこと等により行われていることから、校長や教頭が指導等することは少なくなっている――≪■■■立■■小学校≫

〇なお、同自治体の調査対象2小学校では、教務担当下にある教科書と渉外担当下にあるPTA会計が、事務職員の分掌業務とされているということである。

 

□事例5:「調査結果報告書」非掲載事項②
〇基資料には以下の記載があった。(県教委・市教委)

「■■■公立小中学校事務の共同実施モデル」を策定した。当該モデルでは、学校事務の共同実施において求める効果として、ⅰ)教員が行っている事務処理の負担軽減、ⅱ)学校事務の適正化及び効率化、ⅲ)事務職員の資質向上としており、学校事務の共同実施で教員の負担軽減を図る業務をⅰ)学校徴収金(給食費等)に係る事務、ⅱ)児童生徒の学籍関係に係る事務、ⅲ)学校行事、総合学習等の教育活動への支援に係る業務、ⅳ)調査及び統計に係る事務、ⅴ)教科用図書に係る事務とされた

■■■立■■小学校と■中学校において、学校事務の共同実施による効果等を聴取した結果、「学校徴収金に係る事務は、従来、各学級の教員が行っていたが、現在は口座振替に移行し、事務職員が全生徒を担当することになり教員の負担が軽減された。また、これ以外に教員が担当していた会議の受付等の業務も事務職員に担当してもらうなど、学校事務の共同実施の取組により学校事務処理の効率化が図られ、教員の負担軽減にもつながった。」としている。 

なお■■■教委≪注:県市どちらかは不明≫では、「学校事務の共同実施による定量的な効果までは把握していないものの、多くの学校から教員の負担軽減につながったと聞いている。」と説明している。

〇教員の負担軽減の材料は雄弁に記されているが、「学校事務の共同実施の取組により学校事務処理の効率化が図られ」た具体例はかろうじて「帳簿の相互チェック、新任の事務職員の支援等」の文言が確認できたのみであった。

 

□総括
 政府機関による「事務職員の活用状況」という調査であることから、張り切っていかに(私たちから見れば)事務職員をこき使っているか明け透けに表現・報告している自治体も少なくない。その中でも教員の負担軽減並びに共同実施・共同学校事務室との関連を明記している例を、以上挙げてみた。
 教員の負担軽減=事務職員への業務転嫁が、共同実施・共同学校事務室の目的ないしは成果として重要な位置を占めている実態が克明だ。特に事例5においては、「求める効果」の第一に、事務の適正化効率化でも資質向上でもなくまず教員の負担軽減が位置づけられている。
 一方で具体的なところに踏み込むと、必ずしもうまくいかない実態もあるようだ。同一地域であっても自治体間の温度差があったり、「効果」だけ取り上げればうまくいっているように見えても逆の見解や頭打ちが見えてきていたり、その「効果」も定量的なものでなかったり、と。
 また基資料全体を見ると、共同実施・共同学校事務室に対して否定的な意見も学校現場や教育委員会から少なからず挙げられている。特に事務職員が勤務校を離れることで、所属校の事務の停滞につながる、との警戒感は強い。

 

■調査報告②
「令和3年11月期調査結果」(全事研・22年2月7日)

 

□内容
 本報告で扱う「調査結果」は、全事研が各地・各会員の実態把握や調査研究資料とするためとして、会員に向けて実施した調査の結果をまとめたものである。
 特にここで分析の対象とした個人単位調査は、都道府県により回答数に大きな差があり、愛知710・千葉682・新潟573と3県が500を超える一方で、宮城0・大分0・北海道1・大阪4・京都9と5道府県は一桁にとどまっている。
 都道府県単位の支部を経由した調査であり実際の調査配布先も支部ごとに対応がまちまちであること、支部内においても地区ごとに温度差が大きいこと、支部もしくは地区段階では誰がどういう回答をしたか役員が把握できる形態で行われていること、等々が推測されるため、実態反映の正確性についてある程度差し引く必要はあると考える。
 そうしたバラツキは承知の上で、それでも職域内ではおそらく最多回答数に基づく調査結果であることから、共同実施・共同学校事務室の導入状況と事務職員の業務負担多寡の関連が見出されるかどうか、数値的に分析してみた。

 

□分析:「共同学校事務室」の回答比率高位県・下位県における職務担当比率の比較
〇調査結果中「No.2 事務職員の職務等実態調査結果」より、「令和2年度7月の文部科学省通知内『事務職員の標準的な職務の内容及びその例』に示された職務のうち現在担っているもの」「令和2年度7月の文部科学省通知内『他の教職員との適切な業務の連携・分担の下、その専門性を生かして、事務職員が積極的に参画する職務の内容及びその例』に示された以下の職務のうち、現在担っているもの」のふたつの選択式設問において、「共同学校事務室の運営、事務職員の人材育成に関すること」(「標準的な職務」の1設問)の回答比率が40%以上の7県並びに20%未満の5県(いずれも回答数100以上の県のみ)について、他の職務担当の回答比率を抜粋し、平均値を算出。両グループの平均差を導いた。なお、全体における「共同学校事務室の運営、事務職員の人材育成に関すること」の回答比率は32.4%である。
〇個々の回答者の担当職務状況とリンクした形で共同実施・共同学校事務室の設置状況を計る手段として、「共同学校事務室の運営、事務職員の人材育成に関すること」を担っている比率でグループを分けた。ただ、これがすなわち共同実施・共同学校事務室の設置状況を意味するものではないことには注意。共同実施地区はこれに非該当と回答するかもしれないし、共同学校事務室が設置されていても運営にあたっていない人は非該当と回答する可能性が高い。逆に共同実施・共同学校事務室ともに設置がなくとも後段の事務職員の人材育成にあたっているとして該当と回答する人もいる可能性がある。
〇グループ間の平均差を見ると、「標準的」「積極的」のいずれにおいても「40%以上」が「20%未満」を上回った。しかし、その差がどこまで有意なものかは判断しがたいところである。
〇「標準的」よりも「積極的」の方が差がより大きいことは、ひとつの特徴といえよう。
〇職務内容ごとにグループ間の平均差をみると、10ポイント以上の差が生じているものも目に付く。ただし細かく見ると、特定の県が押し上げないし押し下げている例が少なくない。
〇なお、文科省通知「標準的職務」には「学校徴収金」が明記されていたが、選択肢には存在しなかった。文科省通知に掲載された職務で、選択肢になかったのはこれのみ。理由は不明。

 

□総括
 もとより、共同実施・共同学校事務室の導入・非導入は必ずしも都道府県単位で同一ではない。加えて共同実施・共同学校事務室の設置状況を計る手段として採用した(せざるを得なかった)「共同学校事務室の運営、事務職員の人材育成に関すること」は、回答者によって自認の幅が広く、手段としての精度がかなり低かったのではないかと思料される。
 共同実施・共同学校事務室の導入状況と事務職員の業務負担多寡の関連が見出されるかどうかという調査目的について、本調査分析で何らかの断定はできない。ただ、県ごとの職務担当状況の一端を示すデータとしてはなお貴重であり、別のデータを突き合わせる等、引き続き分析する意義はあると考える。

 

■事例報告
 テーマ課題について、参加者の地元における現場実態を報告していただく。

 

■質問・意見・他にも事例報告

 

■関係整理と課題提起
中教審2答申(のちに政策化)が語る共同実施の目的
〇「チームとしての学校の在り方と今後の改善方策について」(中教審・15年12月21日)
3.「チームとしての学校」を実現するための具体的な改善方策
―(2)学校のマネジメント機能の強化 ― ③事務体制の強化 - エ 事務の共同実施の推進 (P54)

共同実施については,事務処理における質の向上やミス・不正の防止,学校間の標準化による事務処理の効率化等において大きな成果が見られるところであるが,この他にも,教員の事務負担の軽減や事務職員の学校運営への支援・参画の拡大等においても成果が見られるところであり,今後の取組の一層の充実が期待される。
特に,「チームとしての学校」を進めていくためには,共同実施を行い,学校の事務を効率化し,事務職員が副校長・教頭等の補佐を行うことにより,副校長・教頭等が,人材育成や専門スタッフの調整等の業務に,より注力できるようにしていくことが重要である。
また,共同実施組織は,先輩から後輩への指導,事務職員の連携・協働の場として機能することによって,人材育成の場としての効果が期待できる。さらに,共同実施組織に,共同実施組織の業務の取りまとめを行う長を置くことは,事務職員の将来のキャリア形成の観点からも有効であると考えられる。
あわせて,学校間の連携を推進していく観点からも,事務の共同実施の在り方について検討を進めることが重要である。

 

〇「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について」(中教審・19年1月25日)
第5章 学校の組織運営体制の在り方
― 2.目指すべき学校の組織運営体制の在り方(P41~)

○各学校は,法令等を踏まえ,学習指導,生徒指導,学校運営等に関する委員会等の≪以下略≫
○教師個人に細分化して割り振る校務分掌の在り方を見直し,例えば,教務部と研究部≪以下略≫
○特に長時間勤務の傾向がある若手教師については,学校組織全体の中で支えていくこ≪以下略≫
○学校における働き方改革の推進に当たっては,事務職員の校務運営への参画を一層拡大することが必要である。事務職員は,その学校運営事務に関する専門性を生かしつつ,より広い視点に立って,学校運営について副校長・教頭とともに校長を補佐する役割を果たすことが期待されている。文部科学省教育委員会は,権限と責任をもった事務長をはじめとした事務職員の配置の充実を図るとともに,庶務事務システムの導入や共同学校事務室の設置・活用などを推進し,事務職員の質の向上や学校事務の適正化と効率的な処理,事務機能の強化を更に進めるべきである。文部科学省は,事務職員が校務運営に参画することで,副校長・教頭を含め教師の業務負担が軽減された好事例・成果を収集・横展開するとともに,標準的な職務内容を具体的に明示していく必要がある。
また,その際,学校に配属される事務職員の人材の確保と採用後の職能成長について,任命権者である各教育委員会がしっかりと見通しと戦略をもって,望ましい採用やキャリアパスの在り方を検討することが求められる。
○「チームとしての学校」体制を踏まえた学校組織マネジメントの中心は,校長である。≪以下略≫
○「チームとしての学校」の実現に向け,多様な主体との連携や必要な人材の確保が必≪以下略≫

 

□ここまでを踏まえて…

〇調査報告①で見てきたような教育委員会あるいは学校現場の姿勢と、上記のような国全体の方向性との一致。教員政策ありき、教員優先のもとで組み立てられる学校事務政策。
〇調査報告①②で浮き彫りになった、とりわけ事務職員への転嫁が進められている業務――学校徴収金、学籍転出入、教科書給与――、それらの業務が転嫁の対象となることの意味は何か。
○「教員優先」の発想は、しかし上から導入されたものだろうか。また、今になって始まったものだろうか。教員は忙しいから事務職員がやっとけ、事務職員のしんどさは事務職員間で何とかしろ。そんな構造を制度化したのが共同実施・共同学校事務室なのではないだろうか。
○制度化された事務職員同士の関係において生み出される、新たな権威・従属・衝突。
○何より、「どのような働き方が働きやすい労働条件であるか」という根幹が大切。