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伊藤拓也 全国学校事務労働組合連絡会議(全学労連)、学校事務職員労働組合神奈川(がくろう神奈川)・川崎支部で学校事務労働運動に参加 川崎市立学校事務職員 Twitter→@it_zgrr

新型コロナワクチンの住民票に基づく接種 特別定額給付金の轍を踏むな~政府は生存権を守る観点から様々なケースに対応する体制を

厚生労働省新型コロナウイルスのワクチン接種について、住民票所在地で受けることを基本とする方針を発表した。

実施主体となる市町村が住民票に基づき接種券(クーポン券)を送り、医療機関等で接種するという流れ。長期入院や単身赴任などの事情がある場合は、住民票所在地以外でも接種できるという。

 


第42回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会 、第25回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会研究開発及び生産・流通部会 資料

 

「新型コロナ」と「住民票」をめぐっては、特別定額給付金の給付において大きな問題が生じた。

 

まず支給を住民票世帯単位としたことから、DVが原因であることから別居しつつも新住所を知られることを避けるため住民票を移すことができていない人に対して、いかに適切に給付金を渡すかという問題が浮上した。

これについては当事者の働きかけの成果もあり、DV被害者について例外的に支給できる仕組みが設けられた。

もっとも、手続きの期限がタイトに区切られた他、人によっては提出困難な証明書類も求められるなどの課題はやはりあり、世帯単位での支給という仕組みそのものの問題性が浮き彫りになった。

 

そして、なんの例外的措置も設けられることなく、支給からこぼれ落ちてしまった人たちもいた。

路上生活者・野宿者の人たちだ。

国内のどこかに住民登録が残っていれば、申請書類を取り寄せて手続きができるにはできる。が、住所がないのに書類をどう取り寄せれば良いのだろうか。いやそれ以前に、電話をかけられなければ書類請求することさえできない。

まして、住民登録が抹消されている人や登録先がわからなくなっている人には、さらに高い壁が立ちはだかる。新たに住民登録するにしても、住所がなければ住民登録は受け付けてもらえない。

 

自治体によっては野宿者の人たちにもなんとか支給できるよう、国(総務省)への提案や働きかけ、住民登録の弾力的運用などをとったところもあったという。

しかし国は野宿者の人たちへの給付金支給について、実効性ある対応をまったくと言っていいほど取らなかった。

結局、多くの野宿者が特別定額給付金を受け取ることができなかった。

給付金をもっとも必要としている人たち、「10万円あれば3か月暮らせる」(横浜・寿日労の方の弁)というような生活を送っている人たちが、「全国民一律給付」を謳う支援から弾かれてしまったのだ。

 

さて、話をワクチンに戻そう。

そもそもこの新型コロナウイルスワクチン、安全性が充分に確保されているのかという疑念はぬぐえない。一般的な治験期間より短期間で承認手続きを進めようとしているわけだから、当然だろう。

ただそれはそれとして、政府が国庫により全住民に向けてワクチン接種を進める方針である以上、本人の意に反して接種対象からこぼれ落ちる人が出てはならない。

本人の感染リスク低減という人権的観点からも、感染拡大を抑えるという政策的観点からも、そうであるはずだ。

 

しかし冒頭述べたように、「接種券」は住民票に基づき発送するという。特別定額給付金と同様の問題が起きる。

特に野宿者の人たちが、給付金に続きワクチン接種からもはじかれてしまうのではないかと危惧する。

 

これまた冒頭に述べたが、厚労省はワクチン接種場所について原則、住民票所在地とし、特に事情がある場合にそれ以外でも接種を受けられるとしている。具体的に挙げられているのは次の通りだ。

 

• 出産のために里帰りしている妊産婦

• 遠隔地へ下宿している学生

• 単身赴任者 等

• 入院・入所者

• 基礎疾患を持つ者が主治医の下で接種する場合

• 災害による被害にあった者

• 拘留又は留置されている者、受刑者 等


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野宿者の人たちはここでは想定されていないように見える。

仮に全住民向けワクチン接種から野宿者がこぼれ落ちることになれば、特別定額給付金不支給を超えるあからさまな生存権剥奪であり、許されない。